真夏の甲子園で「熱中症死亡」は本当に起きているのだろうか?
公式記録では死亡例が確認されておらず安心できそうですが、2024年大会では選手50人以上が軽・中度の熱中症症状を訴えました。
そこで、本記事では過去の高校野球部で実際に死亡事故が起きたケースや、万一の際に責任は誰が問われるのかを徹底解説します。読めば、安全となぜ法的責任が問われるのか、その背景がわかります。
目次
甲子園で熱中症による死亡事故は本当にあったのか?

死亡事故の報告なし – 甲子園大会に関する公式記録や報道を確認
甲子園大会において、熱中症による死亡事故の正式な報告はこれまでありません。公式記録にも報道にもそのような内容は見当たらず、「事故なし」が現状の結論と言えます。
軽・中度の熱中症症状が連日発生、2024年大会では50人超が訴えた実態
2024年の甲子園大会では、選手のべ56人(58件)の熱中症疑いの報告がありました。試合中に足がつるなどの症状が37件、試合後に出た症状が21件でした。弁護士JPの記事によれば「選手50人以上が熱中症を訴えた」ことが報じられ、最悪の事態を想定し責任の所在についての解説も行われています。
心停止などの突然死は高校野球で発生するが、甲子園大会特有の死亡例はなし
高校野球全体では心停止や事故による突然死の例がいくつか報告されていますが、これらは部活動や練習中に発生したもので、甲子園大会で起きた熱中症による死亡例は確認されていません。
過去の高校野球部での熱中症死亡事例

徳島・阿波西高校の事例(2011年)とその裁判経過(高裁・最高裁)
2011年6月、徳島県立阿波西高校の野球部員さんが猛暑下の練習中に倒れ、多臓器不全で死亡されました。高松高裁は「監督に過失あり」と認定し、県に約4,500万円の賠償命令を出しました。最高裁でもその判断が支持され、支払いが確定しました。
新潟・新津高校の事例(2012年)など他の事例紹介
新潟県の新津高校でも熱中症による死亡事故が報告されています。また、中学校や少年野球など部活動全体での熱中症リスクが存在し、安全配慮義務の重要性が問われています。
少年野球や部活全体での熱中症死亡リスクと判例傾向
部活動全体では、中学生や高校生の熱中症死亡例が過去にあり、判例では「予見可能性」と「回避措置」が主要な判断基準とされています。
万が一死亡事故が起こったら法的に誰が責任を問われるのか?

過去の判例から見る「責任の所在」:監督・学校法人・自治体など
過去の阿波西高校の事例では、猛暑下の練習中に生徒さんが熱中症で倒れ、最終的に監督や学校法人、さらに自治体(県)に安全配慮義務違反があると認定されました。高松高裁および最高裁は、監督の過失を認定し、県に約4,500万円の賠償命令を確定しました。
さらに専門家は、大会主催者(高野連)や学校法人、監督・顧問教員、市区町村・県などにも責任が生じる可能性を指摘しています。(出典:https://www.bengo4.com/c_18/n_19178/)
責任追及の鍵となる「予見可能性」と「回避措置」
判例では、監督や教育者が「生徒の異常を予見できたか」「暑さを察知し練習や試合を中止・軽減できたか」が、責任追及の重要な評価ポイントとなっています。予見可能性と回避措置の有無が、過失の有無を左右する焦点です。この視点は、甲子園大会での安全管理にも十分に当てはまります。
開会式や試合における主催者や組織責任の範囲と争点
もし甲子園で熱中症事故が起きた場合、大会運営を担う日本高等学校野球連盟(高野連)や主催団体にも一定の責任が問われる可能性があります。例えば、観客や選手に暑さが著しい環境で試合を続行させた場合、安全配慮義務違反とされるケースも考えられます。(出典:https://www.bengo4.com/c_18/n_19178/)
SNS上でも「日陰もない甲子園で真昼に試合をやめるべきだ」という声が上がり、責任の所在について関心が集まっています。(出典:https://x.com/bengo4topics/status/1953036215814635857)
現在(2025年大会以降)の甲子園における熱中症対策の現状

クーリングタイムや補食、ノック時間短縮、審判の服装などの具体的対策内容
全国高校野球選手権大会では、5回裏終了後にクーリングタイム(休憩時間)を必ず設け、選手全員を冷房の効いたベンチ裏スペースへ移動させています。理学療法士の指導の下、サーモグラフィーによる体表温の測定、アイススラリー(シャーベット状飲料)や経口補水液の摂取、手や首の冷却、ユニフォームの着替えなどが行われます。2025年大会では時間を8分に短縮して実施しています。
試合前の守備練習(ノック)は時間短縮(7分→5分)および選択制とされ、体力消耗や猛暑リスクを軽減しています。さらに、審判員の靴と帽子は熱吸収を抑える白色装備に変更され、安全性が向上しています。
2024年導入の2部制スケジュール(午前・夕方)とその効果・反応
2024年大会から導入された「2部制スケジュール(午前・夕方開催)」は、安全性を重視して2025年には6日間に拡大されています。これにより最も暑い昼間を避け選手や観客の負担が軽減されました。
実際、導入後は熱中症疑い件数が減少し、観客の救護室訪問件数も前年に比べ大幅に減りました。高野連もこれを「科学的対応」と評価しています。
医師・理学療法士の常駐、暑さ指数測定、救護体制などの組織的対応体制
大会期間中、球場には内科医・整形外科医・看護師・理学療法士が常駐しており、選手の健康管理や緊急対応を担っています。理学療法士は試合前に睡眠・食事・体調についてのアンケートを実施し、試合中・試合後のケア(約20分のクーリングダウン指導)も担当します。
また、複数地点でWBGT(暑さ指数)や気温の測定が行われ、異常時にはアナウンスや電光掲示板で注意喚起がされます。必要に応じた運営判断や試合進行の緩和が迅速に行われる体制です。
地方大会でも広がる先進的対策
地方大会各地でも、全国大会と同様の暑さ対策が広がっています。たとえば、試合開始時間を早朝へ前倒しする都道府県や、2部制導入を進める自治体が増えています。群馬県ではアイススラリー配布や休憩所・ミスト扇風機、日よけテント設置など、多角的な対策が取り入れられており、観戦者と選手の安全が重視されています。
2025年大会から始まった熱中症予防の最新取り組み

日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトの球場内啓発活動
2025年の甲子園大会では、日本気象協会が推進する「熱中症ゼロへ」プロジェクトが、紙扇子型リーフレットの配布と啓発動画の放映を実施しました。
球場内では、服装やこまめな水分・塩分補給の自己チェックができるリーフレットが手渡され、折れば扇として使えるデザインです。
啓発動画は15秒程度で「直射日光を避けよう」「水分補給をこまめに」といった熱中症予防ポイントを繰り返し伝え、選手だけでなく観客や審判、応援団にも安全意識を高める仕掛けとなっていました。
体表温測定や心拍数データによる医学的分析の活用
2025年大会では審判員の同意を得たうえで、体表温と心拍数、運動量を測るセンサーを全43試合で着用。これにより、気温や暑さ指数(WBGT)、本人の自覚症状と照らし合わせ、どのような状況で体温が上がりやすいかを分析しています。
大阪大学のスポーツ医学教室が監修し、得られたデータは今後の選手と審判の熱中症リスク軽減策に活かされる予定です。これにより、より医学的で科学的な観点からの安全管理が進んでいます。
今後の改善提案(開会式希望制、試合時期変更、7回制導入など)
熱中症を防ぐため、医療関係者や安全専門家からは今後の改善策として、開会式の希望制、試合時期の変更、そして短縮ルールとして7回制の導入などが提案されています。
特に大会初戦で熱中症が起きやすい傾向から、2部制(午前・夕方開催)の拡大が議論されており、開会式を夕方にズラすなどのスケジュール見直しも進んでいます。今後の改善によって観戦・出場者の負担を減らし、安全性をさらに確保する方向で動いています。
まとめ
甲子園大会で熱中症による死亡事故は報告されていませんが、2024年大会では50件以上の熱中症疑いが報告され、安全対策の必要性が明らかになりました。
過去の死亡事例では監督や学校に責任が認定された例もあり、安全管理の責任所在を理解することが重要です。現在はクーリングタイム、2部制、医療体制強化、データ管理による予防などが進められており、今後も制度・ルールの改善や緊急対応体制の強化が求められます。
本記事が、安全性と責任所在の理解を深める一助となれば幸いです。