深夜、作業をしながらいつものようにゲームを起動していたら、画面の隅に実績解除の通知が出た。
「熱っ!」
半年近く待っていた最後のひとつだった。これで全実績が揃った。いわゆるトロコン達成だ。
うれしかった。ただ、素直に喜びきれない部分もあって、その気持ちがまだ整理できていない。
そもそも、ずっと作業の横で動かしていたゲームだった
『Chill with You : Lo-Fi Story』は、対戦もクリアもないゲームだ。画面の中でキャラクターが自分の部屋にいて、音楽が流れていて、ポモドーロタイマーが動いている。それだけ。
私はこれを、仕事中の相棒として使っていた。ひとりで作業していると始めるまでが重いのだが、画面の中に誰かがいるだけで、机に向かうハードルが下がる。
その使い方については、以前に書いている。
ところが実績を集め始めたあたりから、遊び方が少しずつ変わっていった。作業のためにゲームを起動していたはずが、いつのまにか実績のためにゲームを起動するようになっていた。
600時間を超えても出ない実績だった
最後に残った「熱っ!」は、ランダムに発生するイベント系の実績だった。
100時間作業する実績はとっくに終わっていた。プレイ時間は600時間を超えていた。それでも、これだけが出ない。
さすがに「運が悪いだけ」で片づけるのが苦しくなってきて、自分が置いている前提のほうを疑い始めた。休憩中に抽選されると思い込んでいるけれど、本当は別の条件なのではないか。飲み物を飲む行動そのものが引き金なら、休憩時間の長さは関係ないのではないか。
そのあたりの試行錯誤は、この記事に残っている。
作業1分・休憩10分という極端なタイマー設定にしたり、停止状態のまま丸一日放置してみたり、いろいろやった。全部外れた。
そして残り1個になった時点の記事の最後に、私はこう書いていた。次に書く記事が「熱っ!解除。ついに全実績達成」になったら最高だ、と。
その記事を、今書いている。
解除された日は、条件が緩和されたアップデートの日だった
問題は、解除された経緯だ。
同じ日の昼に、公式のアップデートが配信されていた。新しい背景が追加されて、キャラクターが冷たい飲み物を飲むようになって、新しいカップと髪型が増えて。
その更新内容の中に、一行こう書かれていた。
「熱っ!」実績の解除条件を緩和しました。
これを読んだときは、正直、笑ってしまった。半年かけて条件を推測して、タイマー設定を変えて、放置時間を変えて、それでも出なかったものが、開発側の一行で緩和された。
そしてその日の深夜、あっさり解除された。
もちろん、アップデートと私の解除に因果関係があると断定はできない。緩和されていなくても、たまたまその日に当たっていた可能性はゼロではない。ただ、600時間以上外れ続けたものが緩和当日に出たとなると、無関係だと思うほうが不自然な気もしている。
自分で解いたのか、緩めてもらったのか
ここが、まだ気持ちの整理がついていないところだ。
達成そのものは事実として残る。実績一覧は全部埋まっている。それは変わらない。
でも、私がやっていたのは「見えない条件を推測して当てにいく」遊びだった。その勝負でいうと、答え合わせをする前に問題のほうが差し替えられた感じがある。
一方で、緩和されたということは、そもそも出にくすぎたのだと開発側も判断したわけで、私の「これはおかしいのでは」という感覚自体は間違っていなかったことになる。そう考えると、少し救われる部分もある。
どちらの気持ちも同時にある。うれしいのと、拍子抜けなのと、少しの安堵と。まだこれをひとつの結論にまとめられていない。
ひとつだけ引っかかっているのは、私の推測は結局合っていたのかどうかが、もう永久に分からないことだ。緩和後の条件で解除された以上、緩和前の条件を検証する手段はない。仮説を立てて、試して、答えを見る前に問題が消えた。地味に、これがいちばん惜しい。
いちばん悔しいのは、スクリーンショットを撮っていないこと
そしてもうひとつ、我ながらどうかと思う失敗をした。
解除の瞬間のスクリーンショットを、撮っていない。
半年待っていたのに、いざ通知が出た瞬間は「あ、出た」と思っただけで、記録を残す発想が出てこなかった。気づいたときには演出も通知も消えていた。
たぶん、心のどこかで「まだ当分出ないだろう」と思っていたのだと思う。ずっと待っていたはずなのに、来る前提で構えてはいなかった。
待ち望んでいたものほど、来たときの準備をしていない。これは実績に限らず、他のことでも身に覚えがある気がする。
それでも、待っていた時間のほうは残っている
以前、別のゲームをトロコンしたときに、遊び切ることと作業にすることの違いについて考えたことがある。
あのときは、作業になった瞬間からゲームがつまらなくなる、という話だった。
今回は少し違った。「熱っ!」を待っていた時間は、たしかに作業のようでもあったが、条件を疑い始めてからは検証に変わっていた。仮説を立てて、設定を変えて、結果を見て、外れたら前提を直す。地味だけれど、退屈ではなかった。
その時間そのものは、緩和されても消えない。残っている。
とはいえ、これを「だから無駄ではなかった」ときれいにまとめるのは、今の気分だとまだ早い。もう少し引きずっていたい気もする。
全部埋まったあと、このゲームをどうするか
実績が全部埋まった今、このゲームを起動する理由がひとつ減った。
ただ、もともとは作業用に使っていたわけで、そちらの役目は何も変わっていない。実績のために起動していた期間のほうが、むしろ本来の使い方から外れていたのかもしれない。
今回のアップデートで新しい背景と、冷たい飲み物と、新しい髪型が増えた。実績とは関係なく、単純に見てみたい。
しばらくは、何も狙わずに横で流してみようと思っている。通知を待たずに済む状態でこのゲームを起動するのは、たぶんずいぶん久しぶりだ。



