AIに仕事を任せても、判断まで手放さない。WordPress記事移行で見えた「安全な自動化」

AIとWeb制作

古いWordPressサイトを、新しい環境へ移す作業を進めている。

対象は記事553件、画像6,551件。これだけの量になると、一つひとつ目で確認しながら手作業で移すのは現実的ではない。そこで、ChatGPTとCursorを使い、データの抽出や照合、分類を自動化することにした。

ただ、今回の作業で強く感じたのは、AIを使うことは「全部やってもらうこと」ではない、ということだった。むしろ重要なのは、どこまで任せ、どこで止め、何を人間が判断するのかを先に決めることだった。

バックアップがあっても、安全とは限らない

移行を始める前に、まず本番サイトのバックアップを確保した。データベースはSQL形式で保存し、公開領域のファイルはFTPでダウンロードする。これで、万が一のときに現在の状態へ戻せる可能性は高くなる。

しかし、ここで一つ大切な区別がある。

「元に戻せること」と「安全なデータであること」は、同じではない。

古いサイトは過去に不正アクセスの影響を受けた可能性がある。環境を丸ごと複製すれば、不要な設定や不審なデータまで新しいサイトへ持ち込むかもしれない。バックアップはあくまで復旧のための保存であり、新サイトへそのまま移すための材料ではない。

そこで、記事、画像、設定を分け、必要なものだけを検証して移す方針にした。急いで移行を終えるよりも、「何を持ち込むか」を決められる構造を作ることが先だった。

「危険度が高い」は、削除してよいという意味ではない

旧記事の本文を自動監査したところ、553件のうち37件がhigh-riskと判定された。

数字だけを見ると、不正なコードが大量に見つかったようにも感じる。しかし個別に調べると、22件は正規の埋め込みコード、10件はUnicode文字による誤検出、2件は書式上の問題だった。残る3件も内容を確認し、それぞれの扱いを決めることができた。

この結果から分かったのは、自動判定は「結論」ではなく、「人が詳しく見る順番」を作るものだということだ。

AIは大量のデータから怪しい場所を絞り込むのが得意だ。一方、その記述が当時のサービスに必要だったものか、現在も残す価値があるかまでは、数字だけでは決められない。危険というラベルに反応して機械的に消していたら、正常なコンテンツまで失っていた可能性がある。

壊れて見えるものにも、元の意味がある

記事本文には、216個の「itemlink」というショートコードが残っていた。対応するプラグインがない新環境では、そのまま表示しても機能しない。

最初は不要な記述にも見えたが、参照先をデータベースで調べると、120件の商品データがすべて残っていた。つまり、壊れた文字列ではなく、元の商品情報へたどり着くための手掛かりだった。

そのため、ショートコードを削除するのではなく、商品名やリンクを読み出し、通常の商品リンクとして再構築する方針にした。

古い仕組みを整理するとき、今の環境で動かないものを「不要」と判断するのは簡単だ。しかし、表示されている文字列だけでなく、その背後にあるデータとの関係まで見れば、再利用できる資産が残っていることがある。

これはWebサイトだけでなく、昔の仕事や経験にも似ている。今の形では使えなくても、役割を読み直せば、別の形で生かせるものはある。

AIに任せたのは作業であり、判断ではない

今回、Cursorには大量データの抽出、照合、分類、レポート作成を担当してもらった。ChatGPTとは、Cursorへ渡す条件や禁止事項、停止地点、完了判定を詰めた。

たとえば、元の記事本文は変更しない。外部URLへアクセスしない。スクリプトを実行しない。検証が終わるまでWordPressへ書き込まない。変換後のデータは別の場所へ生成し、結果を確認できるところで止める。

こうした境界を先に決めたことで、AIは速く作業しながらも、勝手に本番環境を変えることはない。私は一件ずつ処理する代わりに、結果と例外を確認し、次の段階へ進めるかを判断できる。

AIを使ったことで手放したのは、膨大な反復作業だった。手放さなかったのは、何を残し、何を変え、どの時点で実行するかを決める権利だった。

何も公開しなかった日にも、仕事は進んでいる

この日は、新しい記事を公開したわけでも、新サイトを完成させたわけでもない。それでも、6,551件の画像が移行可能な状態にそろい、553件の記事本文を変更せずに監査し、曖昧だった項目の扱いをほぼ確定できた。

目に見える成果だけで一日を測れば、「まだ移行していない」となる。けれど実際には、失敗の可能性を減らし、次の変換作業を安全に始められるところまで進んだ。

大きな作業では、実行そのものより、戻れる状態を作ること、例外を把握すること、止まる場所を決めることのほうが重要な場合がある。

AIによって仕事の速度は上げられる。ただし、その速度を安心して使うには、人間が判断できる余白を設計しておく必要がある。

自動化の価値は、人が考えなくてよくなることではない。考えるべきことに、きちんと力を使えるようになることなのだと思う。

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