あるプロジェクトを凍結した。
完全に削除したわけではない。今はこれ以上進めないと決め、いったん棚へ戻したという方が近い。
それまで時間をかけて考え、設計し、形にしようとしてきたものだった。だから、止めると決めた直後には、少し空白が生まれた。
しかし、その空白ができたことで、別のプロジェクトが急に目に入るようになった。
それは、自分の趣味であるサーフィンをテーマにしたWebサイトだった。
続けてきた時間より、これから進みたい方向を見る
一度始めたものを止めるのは難しい。
これまで使った時間や労力を考えると、「ここまでやったのだから、もう少し続けた方がいいのではないか」と思ってしまう。
けれど、過去に使った時間は戻ってこない。
本当に考えるべきなのは、これまでどれだけ頑張ったかではなく、
これからの時間を、どこに使うと自分の望む生活に近づくのか
ということなのだと思う。
凍結したプロジェクトには、収益化の可能性がなかったわけではない。ただ、それを大きく育てようとすると、自分の価値観との小さなズレや、望んでいない働き方へ戻る可能性があった。
一方、サーフィンのサイトは、自分の日常と直接つながっている。
波の情報を確認する。
実際に海へ行く。
数値では良さそうなのに、地形の影響で波が割れていないことを知る。
今日は入るのか、それとも見送るのかを判断する。
そのすべてが、サイトを改善するための材料になる。
仕事のために無理やり興味を作るのではなく、普段の生活から自然に課題が見つかる。その違いは大きい。
自分自身がユーザーであることの強さ
Webサービスを作るとき、「利用者が何に困っているのか」を理解することが重要になる。
しかし、他人の悩みを想像し続けるのは簡単ではない。
ヒアリングをしたり、検索キーワードを調べたり、競合サービスを分析したりしても、利用者が実際に感じている不便を完全に理解できるとは限らない。
その点、自分自身が利用者であれば、日常の中から改善点が見えてくる。
波の高さや風向きだけでは、今日どこでサーフィンできるのか判断できない。海へ行ってみなければ分からないことも多い。
初心者でも入れるのか。
混雑しているのか。
波を待つ時間が長すぎないか。
近くのポイントへ移動した方がよいのか。
こうした情報は、単なるデータではない。
人が実際に行動を決めるための情報だ。
そこで、サイトの役割も少し見えてきた。
サーフポイントを並べるだけの辞典ではなく、
今日どこへ行くか、あるいは行かないかを決めるための判断支援サイト
として育てられるのではないか。
そう考えると、海へ行く時間は趣味であると同時に、現地調査にもなる。
好きなことを仕事にするというより、好きなことを通じて得た判断や経験を、誰かの役に立つ形へ変えていく感覚に近い。
AIによって「小さく試す」の意味も変わる
次に考えたのは、サイトへ新しい地域のサーフポイントを追加することだった。
通常であれば、まず10件ほど追加し、反応を見てから広げる方法が安全だろう。
しかし今回は、AIを使ってページの基本データや文章を生成する。人間が1ページずつ手作業する場合と比べると、10件追加する場合と、30件、50件追加する場合の作業量に大きな差がない。
そうであれば、少数だけ追加するより、地域単位で網羅した方がよい。
一つひとつの記事を単独で作るのではなく、
- 地域
- 難易度
- 混雑度
- 駐車場
- 向いている風向き
- 初心者向けか
- 近隣ポイントとの違い
といった情報を構造化しておけば、個別ページだけでなく、比較記事や一覧ページにも展開できる。
AIの価値は、文章を速く書くことだけではない。
人間が手作業で作っていたときには現実的でなかった規模を、最初から設計できることにある。
ただし、数を増やせば価値が生まれるわけではない。
誰でも調べられる情報を並べただけなら、ページが50件あっても、利用者にとっては同じような内容に見える。
必要なのは、
このポイントは、どんな日に、どんな人が選ぶとよいのか
という判断材料だ。
AIには情報整理や下書きを任せ、人間は経験から生まれる判断軸を加える。その分担ができれば、大量生成は薄い記事の量産ではなく、地域全体を理解できるデータベースへ変わっていく。
「進められるもの」より「育てたいもの」を選ぶ
プロジェクトには、作れるものと、育てたいものがある。
技術的に作れるから始めることもある。収益になりそうだから続けることもある。
けれど、長く育てていくためには、自分の生活や価値観とつながっていることが大切なのだと思う。
日々の経験が改善につながり、改善した結果が自分の生活にも戻ってくる。さらに、それが同じ悩みを持つ人の役にも立つ。
その循環がある仕事なら、作業だけが生活から切り離されにくい。
一つのプロジェクトを止めたことは、失敗ではなかった。
止めたことで、自分がどこへ進みたいのかが見えた。
何かを手放した後に残る空白は、不安にもなる。
けれど、その空白は、今まで見えていなかったものを置くための場所でもある。
過去にどれだけ時間を使ったかではなく、これからの時間を何に使いたいのか。
その問いに素直に答えることが、次の仕事を選ぶ最初の一歩になるのだと思う。