波予報を信じて海へ向かった
その日の波予報は、午前11時が57.8点、12時が57.3点だった。
絶好のコンディションとはいえないものの、うまく時間を選べば楽しめそうな数字だ。前日の仕事による疲れが残り、睡眠も十分とはいえなかったため、すぐに入るか、少し身体を休ませてからにするか迷っていた。
予報を見る限り、午後になっても波のサイズは大きく変わらない。ただし、時間が進むにつれて南寄りの風が強くなる見込みだった。
波の大きさだけで考えれば待ってもよい。しかし、風まで考えるなら早いほうがよい。
画面の数字を眺めながら考えても答えは出なかったので、まずは自宅近くの海を見に行くことにした。
画面の57点と、目の前の海は違っていた
海へ着いたのは昼前だった。
すでにオンショアが吹き、波の面は荒れていた。沖まで白波が続き、どこから沖へ出ればよいのか分かりにくい。海に入っているサーファーも一人もいなかった。
波がまったくないわけではない。むしろ、ある程度のサイズはあった。
しかし、「波があること」と「気持ちよくサーフィンできること」は同じではない。あの状態で海へ入れば、波に乗る前にゲッティングアウトでかなりの体力を使っていただろう。
前日の疲労も残っている。別のポイントまで移動したとしても、そこが良い状態とは限らない。
現地の海を前にすると、今日は入水を見送るのが妥当だと思えた。
これは、せっかく海まで来たのに諦めたというより、海を確認したからこそ選べた判断だった。
オンショアは風速だけでは評価できない
気になったのは、自分で作っている波予報ツールと実際の海況の差だった。
ツールが表示していた評価は57.3点。しかし、目の前の海を自分の感覚で評価するなら、43点から47点程度が妥当だったと思う。10点以上の差があったことになる。
特に不自然だったのが、南南東から約2.6m/sのオンショアが吹いているにもかかわらず、風に関する評価が10点満点中8.8点も残っていたことだ。
風速だけを見れば、それほど強い風ではない。
ところが、その日は南寄りのうねりがあり、波高は1.3m以上、周期は9秒前後だった。そこへ同じ南寄りのオンショアが加わったことで白波が増え、波面だけでなく、沖へ出る難しさまで上がっていた。
つまり、オンショアの影響は風速だけでは決まらない。
オンショアの風速 × 波高 × 周期 × うねりの向き × 海岸の向き
これらが組み合わさったとき、初めて実際の海に近い評価になる。
小波の日なら、弱いオンショアによって波が少し立ち、かえって乗りやすくなることもある。そのため、「オンショアなら一律に大幅減点」という設計でも現実とは合わない。
必要なのは、風を単独の数値として扱うのではなく、波との相互作用として評価することだった。
海に入らなかった日も、サーフィンの一部になる
サーフィンへ行こうと思って海まで来たのに、結局入らずに帰る。
以前なら、そんな日は「何もできなかった日」のように感じていたかもしれない。
しかし今回は、実際の海を見たことで、予報ツールに足りないものがはっきりした。
沖まで続く白波、まとまりのない波面、見つからないカレント、海に誰もいないという状況。それらは、波高や風速の数字だけでは表現しきれない情報だった。
もし予報を信じてそのまま入っていたら、体力を消耗し、「今日はコンディションが悪かった」で終わっていた可能性がある。反対に、海を見ずに諦めていたら、予報と現実のズレにも気づけなかった。
現地まで行って観察し、自分の身体の状態も含めて入らないと決めた。そして、その判断を予報ロジックの改善材料に変えられた。
海に入らなかったとしても、判断と観察は確かに一段進んでいる。
波予報の役割は、判断を代行することではない
どれほど予報の精度を高めても、画面上の点数だけでサーフィンの可否を完全に決めることはできない。
同じ海況でも、体力が十分な日と、疲れが残っている日では負担が違う。経験や使っているボードによっても、楽しめる波は変わる。
だから、波予報ツールの役割は「今日は必ず入るべきだ」と結論を出すことではないのだと思う。
風や波のデータから見えにくいリスクを整理し、海へ向かう前の判断を少し軽くする。そして最後は、現地の海と自分の状態を見て決める。
予報と現実の間には、どうしても隙間が残る。その隙間を埋めるのは、海を実際に見た人の感覚だ。
今回の57点は外れていた。しかし、そのズレは失敗ではない。どの条件を評価し直せばよいのかを教えてくれる、貴重な実測データになった。
サーフィンを見送った一日は、波に乗れなかった日ではある。
それでも、海を理解し、次の判断を良くするための一日にはなっていた。