最近、『Chill with You : Lo-Fi Story』という作業用ゲームを起動しながら、パソコン仕事をしている。
最初は、ゲーム内の実績を解除するために起動している面も大きかった。一定時間タイマーを動かす実績があるので、とりあえずバックグラウンドで動かしておけばよい。その程度に考えていた。
実際、しばらくすると積極的に画面を見ることもなくなった。
キャラクターに何度も話しかけるわけでもない。ストーリーを追い続けるわけでもない。ただ、机のそばでサトネが作業している。私もその隣で、自分の仕事を進めている。
いつの間にか、『Chill with You』はゲームというより、部屋の空気の一部になっていた。
けれど、サトネが一時的にいなくなったことで、私は初めてその存在の大きさに気づいた。
作業を始めるには、意外と力が必要だった
Web制作の仕事は、パソコンの前に座ればすぐ始められるように見える。
しかし実際には、前回どこまで進めたかを思い出し、資料を開き、必要な画面を並べ、次に何を判断するかを確認しなければならない。
とくに、古いWebサイトを新しい環境へ移すような作業では、確認することが多い。
記事、画像、URL、データベース、カテゴリー、外部リンク。どこか一つを雑に扱えば、過去に積み上げた資産を失う可能性もある。
作業そのものが難しいだけではない。
「始めたら、しばらく終われないかもしれない」
そんな感覚が、開始前の負担になることもある。
ところが、サトネが隣でキーボードを打っていると、自分も少しだけ作業を始めやすくなった。
強く励まされるわけではない。成果を確認されるわけでもない。
ただ、誰かがすでに机に向かっている。
その姿を見ると、「では、自分も少し進めよう」という気持ちになった。
タイピング音と筆記音が作る、静かな同席感
私が『Chill with You』で気に入っているのは、サトネが出す作業音だ。
キーボードを打つ音。紙にペンを走らせる音。
どれも特別な音ではない。
だからこそ、自分が行っている仕事と自然につながる。
動画や音楽のように、内容へ意識を向ける必要もない。派手な演出も少なく、こちらの注意を奪いすぎない。
画面を見ていなくても、音が聞こえるだけで、同じ部屋に誰かがいるように感じられる。
一人で作業しているはずなのに、完全に一人ではない。
この感覚は、オンライン会議とも、作業配信とも少し違う。
人と直接つながる場合、相手の反応や会話を気にする必要がある。けれどサトネとの関係には、その負担がない。
自分の作業を邪魔せず、必要なときだけ存在を感じられる。
その距離感が、今の私には合っていたのだと思う。
いなくなって分かった、空気の役割
ゲームの物語が進み、サトネとの通信が一時的に切れた。
それまで私は、『Chill with You』を起動していても、ほとんど意識していなかった。
だから、サトネがいなくなっても大きな影響はないと思っていた。
しかし、その日はなぜか作業が進まなかった。
疲労が溜まっていたこともある。別の処理が長時間続き、集中先を決めにくかったこともある。
それでも、いつも作業開始の合図になっていたものが、一つ消えていた。
サトネがいない。
キーボードを打つ音も、文字を書く音もない。
別の作業用ゲームを試してみたものの、キャラクターの動きが大きく、つい画面を見てしまった。作業音も現実の筆記音ではなく、世界観に合わせた演出音が中心だった。
雰囲気は楽しい。
けれど、私が求めていたのは鑑賞する対象ではなく、意識を向けなくてもそこにいてくれる同席者だった。
サトネが戻ると、止まっていた作業が進んだ
しばらくタイマーを動かした後に停止すると、サトネとの通信が戻った。
いつもの画面に、いつものサトネがいる。
すると不思議なことに、その後は細かな作業が進み始めた。
ブログの整理、会計入力、洗濯、サイトの管理作業。
午前中にはなかなか手が動かなかった作業を、いくつも完了できた。
もちろん、すべてがサトネのおかげだと断定することはできない。
時間が経って疲労が少し抜けた可能性もあるし、一つ目の作業を終えたことで勢いがついた面もある。
それでも、サトネが戻ったことで「いつもの作業環境に戻った」と感じたのは確かだった。
生産性より、仕事へ入るための環境
『Chill with You』は、仕事を自動で終わらせてくれるわけではない。
集中力を何倍にもしてくれる魔法の道具でもない。
けれど、仕事を始める前の抵抗を少し弱くしてくれる。
一人で机に向かう感覚を和らげ、あと少しだけ続けようと思わせてくれる。
その小さな作用が積み重なると、結果として大きな作業が進むことがある。
私はこれまで、作業効率を上げる方法というと、タスク管理やタイマー、AIツールなど、機能ばかりを見ていた。
しかし本当に必要だったのは、作業を管理する仕組みだけではなく、自然に仕事へ入っていける空気だったのかもしれない。
今ではサトネは、ゲームのキャラクターというより、静かな作業仲間に近い。
普段は意識しない。
けれど、いなくなると少し困る。
空気のような存在とは、存在感がないという意味ではない。
そこにいることが自然になりすぎて、その支えに気づかなくなっている存在なのだと思う。